威力とコントロールどっちを選ぶ
テニスのショット
勢いとコントロールは
どちらが優先?
テニスにおいて、「コントロール」と「打球の勢い」は、二者択一の問題として論じられるのが常なのですが、果たして本当にそうなのでしょうか。ここでは、その二つのテーマの関連性について書かせていただきます。
コントロールミスは失点に直結する
テニスはミスで決まるポイントが多く、しかも、そのミスの大半はコントロールミスです。
打球が狙いから外れたためにアウトやネットが発生するわけで、打球のコントロールに失敗したことが失点の直接原因ということです。
そのため、全てのショットを狙ったところに打ちたいという思いは、きっと誰にもあるでしょう。
打球をコントロールする能力が高ければ、不用意な失点が防げるので勝ちやすくなるからです。
ショットの勢いと正確性はどちらが大事?
ですから、ショットの勢いと正確性という二つの課題については、どちらかといえば、正確性のほうが重視される傾向が強いのではないでしょうか。
男性の場合は「細かいコントロールより勢い重視」という方も少なくないのですが、女性の場合は、「打球の勢いは求めずにコントロール重視」という考えの方のほうが多いようです。
特に、女ダブでは、「速いボールを打っても速く打ち返されるだけなので、女ダブに速い打球は要らない」と明言される方もいて、「配球の組立が命」ということのようです。
でも、果たしてそうなのでしょうか。
コントロール能力とは
その検証をする前に、コントロール能力というものの中身を再確認する必要があります。
打球を正確にコントロールする能力は「うまさ」や「技術力」だと考えられがちですが、でも実際には、うまいからといって打球を意のままにコントロールできるとは限りません。
その理由は以下のとおりです。
静止しているボールを打つのであれば、ショットの成否は100%プレイヤーの動き次第です。
プレイヤーが正しい動きをすれば常に正しい結果が出るわけで、「うまさ=コントロール能力の高さ」ということになります。
でも、動いているボールを打つ場合は、プレイヤーが正しい動きをしても、そのタイミングが少しでもズレると正しい結果にはなりません。
こういう場合、打球のコントロールのカギを握るのはうまさではなく、動きのタイミングの精度だと言えるでしょう。
さらに言えば、いくら練習して技術を磨いても、ちょっとタイミングが狂えばその技術は宝の持ち腐れになるので、「うまさ=コントロール能力の高さ」ということではないようです。
技術が崩壊するとき
例えば、自転車に乗る練習をして、その結果、スムーズに乗れるようになったという場合、翌日になったらうまく乗れなかったということはまずありません。
獲得した技術は確実に自分のものになるわけです。
でもテニスでは、多くの時間をかけてできるようになったことや、練習を重ねてやっと獲得した「技術」が、あるとき簡単に崩れ去ってしまう、という経験を多くの方がされてきていると思います。
よくある例では、久しぶりの試合で緊張したりすると、イージーなはずのショットでも、ミスを連発してボロボロの結果になってしまうことがあります。
緊張しても自転車に乗れなくなるということはないでしょうが、テニスの場合は、緊張すると自分の打ったボールが相手コートに全く入らなくなるということがあります。
そこまでいかなくても、普段は勢いのあるショットが打てるのに、試合になるとヘロヘロの打球しか打てなくなるというケースは珍しくありません。
練習の積み重ねによって技術的には十分可能なはずのことが、あるとき、急にできなくなってしまうわけです。
こんなことになってしまう原因は、緊張する局面ではプレイヤーがきちんと打とうとするため、身体の動きに注意が向いて、その結果、ボールへの注意力が低下してタイミングが狂うことにあります。
動くボールを扱うスポーツでは、飛び交うボールの動きに身体の動きが同調しなければ基本的にどうしようもないのですが、何かの原因でその同調性が失われると、身に付けたうまさや技術力は全く役に立たなくなるわけです。
コントロール能力とはタイミングを正確に合わせる能力のこと
テニスのショットで、インパクトのポイントが10cmもズレれば、狙いどおりの打球にならないことは明らかですが、その10cmのズレは時間に直せば0.01秒くらいです。
(※実戦的なストロークの場合)
ヨーイドンの合図で実際に走り始めるまでにかかる時間は、最短でも千分の百秒(0.1秒)くらいで(国際陸上競技連盟規定)、一回のまばたきでまぶたが往復するのに千分の三十秒(0.03秒)くらいかかるのを考慮すると、0.01秒のズレを発生させないように連続的にボールを打ち続けるのは、普通の人間にとって至難のワザだということがわかります。
そのため、プレー中に要求されるのは、極度の集中状態であり、ちょっとでも気が散ったらタイミングが合わなくなります。
ですから、たくさん練習して優れた打ち方を身に付けたとしても、その技術をうまく発揮できるかどうかは、その一瞬に集中できているかどうかで決まってしまうということです。
もっと言えば、コントロール能力とは、ボールの打ち方という身体の動きのことではなく、動きのタイミングを正確に合わせ続ける能力のことだと考えたほうが現実的です。
ちょっと気が散るだけミスが出る
毎回のショットの正確性は、一回一回のタイミング合わせの正確さによって得られるもので、ということは、これまでの練習の積み重ねはこれからのショットの成功を確約するものではないということです。
もちろん、飛んでくるボールに対する反射能力(=技術)がしっかり身に付いていない状態では、タイミングを合わせる能力だけが高くてもどうにもなりませんが、技術を磨くだけではこれからの勝利は約束されないということです。
どんなに熱心に練習を積んでも、ほんのちょっと気が散るだけで、いつでもすぐにミスが出るというのがテニスの本質のようです。
必ずミスをするスポーツ
誤差範囲が千分の数秒という単位でのタイミングコントロールを毎回のショットで成功させ続けるのは、人間にとって至難のワザであり、何回か打てば誰でも必ず失敗するので、それが、テニスというスポーツでミスが多い原因なのですが、ということは、ショットの正確性を追い求めても、そこにはゴールがないかもしれません。
つまり、正確なショットを打てる能力を身に付けようと考えても、結局は一回一回のショットのタイミング合わせの問題なので、その瞬間の集中度合いで決まることであり、技術の習得で何とかなるものではないということです。
集中力をコントロールする能力がキーポイント
長年、練習を重ねても、うまくなった実感が持てないという方は、この辺のことについての理解が不足しているのかもしれません。
つまり、テニスで本当に重要なのは、技術を身に付けることではなく、身に付けた技術を最高の状態で発揮し続けることができるように、集中力を高めてその状態を維持する能力を身に付けることです。
せっかく武器を手に入れても、その武器をうまく使うことができなければ戦力アップにはつながらないわけです。
こうした理解がないと、せっかく磨いた技術が砂上の楼閣のように簡単に崩れ去る経験を繰り返すことになるかもしれません。
分けて考えないほうが良いのでは!?
そもそも、ショットの勢いと正確性は、それぞれが別の課題として二つに分けて考えられることが多いのですが、その前提そのものを疑ってみる必要がありそうです。
「正確性=うまさ」で、「打球の勢い=プレイヤーのパワー」というように理解すると、確かに、全く別のテーマになってしまうのですが、実際問題として、「正確性=うまさ」ではなく、「正確性=タイミングコントロール」だとすれば、「打球の勢い=プレイヤーのパワー」というのもちょっとあやしいかもしれません。
長くなりそうなので、ここで答えを先に言ってしまうと、物理的には「打球の勢い=プレイヤーのパワー」ではなく「打球の勢い=ラケットのヘッドスピード」というのが正解です。
強いショットを打つには強い力が必要だというのが一般常識ですが、これは、合わないラケットによってもたらされる誤解です。
合わないラケットでは、プレイヤーのパワーが打球にうまく伝わらないので、それを力で解決しようとして、インパクトに力を入れることで強いショットを打とうとするのですが、この方法ではヘッドスピードが上がらずに打球が失速します。
運動がムダになるのを目指した打ち方
力を入れるには、その力を受け止めてくれる相手が必要なので、力を入れてボールを打つためには、それに見合うだけのインパクトの手応えが必要です。
そして、力を入れて打ったときのインパクトの手応えは、フレームショットやオフセンターヒットの手応えと基本的には同じものなので、しっかりした手応えがあればあるほど打球の勢いはマイナスされます。
つまり、力を入れて打つという行為は、プレイヤーのパワーが打球に伝わらないときに発生する打球衝撃の存在を前提にして成り立っているので、運動がムダになるのを目指した打ち方と言えます。
打球の勢い=タイミングコントロール
強い打球を打ち出すために必要なのはヘッドスピードですが、でも、ヘッドスピードさえ速くすれば、いつでも打球が速くなるとは限りません。
インパクトの時間と場所が問題なのです。
プレイヤーによって振られたラケットが飛んでくるボールと衝突して、ラケット側のエネルギーが効率良くボールに伝わる場所は一点であり、両者が動いている状態では、そのタイミングはほんのわずかな一瞬です。
インパクトのタイミングが、その正しい一瞬から少しでも外れると、打球衝撃が大きくなり、その分、打球の勢いは失われます。
ということは、打球の勢いについても、正確性と同様にタイミングコントロールがカギを握っているということです。
逆に、力を入れて打っている限り、オフセンターヒットやオフタイミングのインパクトを大歓迎しているのと同じなので、ラケット側のエネルギーが打球に効率良く伝わるほんのわずかな一瞬をとらえようとする試みはスタートしません。
「力を入れて打つ=インパクトが雑になる」ということです。
勢いと正確性はワンセット
インパクトが雑な状態ではショットの正確性は生まれないので、力を入れて打つと打球のコントロールは定まらなくなります。
その上、力を入れると身体のバランスが崩れやすくなるので、さらに、ショットが安定しなくなります。
ということで、力を入れて打つとエネルギーロスが生まれ、同時にコントロールも悪くなるのですが、これはつまり打球の勢いと正確性は一緒に消滅するということです。
また、力を入れると運動が安定しなくなることを知っている方は、力を入れずにていねいに打とうとすることがありますが、身体の動きを遅くしたからといって、それでタイミングが合うわけではなく、かえってギクシャクしたりするので、ショットの勢いをあきらめても、その代わりにコントロールが良くなることは期待できません。
ショットの正確性を得るためには、タイミングコントロールの精度を上げていくことが必要ですが、それができれば、ラケット側のエネルギーを打球に効率良く伝えるほんのわずかな一瞬をとらえることもできるようになるので、打球の勢いも上がりやすくなります。
つまり、打球の勢いと正確性はワンセットだということです。
勢いを上げないのはもったいない
というわけで、ラケットフィッティングによって合うラケットを手にした方は、それによってミスが減ったことを喜ぶだけでなく、打球の勢いをさらにアップさせることにもぜひ取り組んでいただきたいと思います。
合うラケットを使えば「力を入れて打つ状態」から抜け出せるので、それによってショットの精度が上がったという場合、それだけで満足してはもったいないかもしれません。
なぜなら、ショットの精度が上がったということは、タイミングコントロールの精度が上がったということなので、であれば、打球の勢いを上げることも容易になっているはずだからです。
イメージが上限
ただ、そこでネックになるのはプレイヤー自身のイメージです。
どういうことかというと、プレイヤー自身が速い打球をイメージしていないと、そういう打球が生まれないのです。
自分のショットは大体これくらいのスピード感だと思っている限り、実際のショットのスピードもそれが上限になります。
プレイヤーの身体の動きはショットのイメージによって引っ張られるので、大体これくらいのスピード感だと思っているときは、そういうスピード感のボールを打つような動きになります。
イメージ以上の打球は出ないわけです。
ですから、威力のある打球を打ち込むためには、そういう球筋をイメージする必要があります。
現状に対して高望みをする必要があるわけです。
練習方法
そうすると、そういうショットはどうやって打てばいいのか、というご質問をすぐにいただきそうですが、とりあえず、高望みをすることが第一歩です。
具体的な練習としては、素振りでラケットを速く振る練習をして、そのときの身体の使い方(運動連鎖)を覚えることです。
次に、壁打ちや球出しで同じことをして、速いスイングで強いショットが打てることを確認します。
そして、コート上での打ち合いになったら、身体の動きのことは全部忘れて、速い球筋のイメージだけ持ち続けることです。
力を使わずに打球スピードを上げる
強いショットを打つために必要なのは腕の筋トレなどではなく、身体全体を使ってヘッドスピードを上げることと、そのエネルギーがムダなく打球に伝わるようにインパクトの精度を上げることの二つだけです。
勢いのあるショットは濁りのないクリアなインパクトから生まれます。
インパクトの精度がどういう状態なのかを感じ取るには、振動止めやソフトなグリップテープなどは感覚の邪魔になるのであまり付けないほうが良いでしょう。
身体に合うラケットを使っている方は、それが可能なはずですので、身体の力を使わずに打球スピードを上げることにぜひとも取り組んでいただきたいと思います。