テニスは技術で打つわけではない

テニスのショットは
「技術」で打つわけではない

「技術の向上」が必ずしも「戦力アップ」に結びつかないことがよくあります。テニスはとても難しいスポーツなので、かなり練習を積まないとまともに打てるようにはなりませんが、それなのに「技術で打つわけではない」というのは、どういうことなのでしょう。

「技術の向上」
=「戦力アップ」ではない

試合で勝つには、ミスを減らしてショットの威力と精度を上げることが必要で、それを目指して「技術の向上」ということに普通はなるのですが、「技術の向上」=「戦力アップ」と単純に考えてしまうと、努力を重ねても結果が出ない状態に陥ってしまうかもしれません。

「またまた変なことを言い出して」と思われるかもしれませんが、テニスには「技術以外のとても重要な要素」があって、それが、試合での戦力を大きく左右していることを知らないと、同じ場所をグルグル回っているような練習になりかねません。

テニスではできることができなくなってしまう

例えば、自転車に乗る練習をしてスムーズに乗れるようになったとき、翌日になったらうまく乗れなかったということはまずありません。
獲得した技術は確実に自分のものになるわけです。

でもテニスでは、多くの時間をかけてできるようになったこと、練習を重ねてやっと獲得した「技術」が、あるとき簡単に崩れ去ってしまうという経験を多くの方がされていると思います。

よくある例では、久しぶりの試合で緊張したりすると、イージーなはずのショットでも、ミスを連発してボロボロの結果になってしまうことがあります。
緊張しても自転車に乗れなくなるということはないでしょうが、テニスの場合は、緊張すると自分の打ったボールが相手コートに全く入らなくなるということがあります。

そこまでいかなくても、普段は勢いのあるショットが打てるのに、試合になるとヘロヘロの打球しか打てなくなるというのは珍しくありません。

いつもは簡単にできるはずのことが、時と場合によってできなくなってしまうというのは、プレイヤーの技術面に問題があるわけではないと考えられます。
テニスでは、技術以外の原因でうまく打てなくなることがあるのです。

何回か打てば
必ずミスが出るのはなぜ?

何年もプレーしてきている人であれば、フォアハンドストロークを相手コートに入れるのが難しいと感じる人は少ないと思います。
フォアハンドストロークをきちんと打つ技術は、テニスプレイヤーであれば誰もが持っているわけです。
でも、何回か打ち合いが続くと、誰でも必ずアウトやネットなどのミスをします。

ボールを打つ技術は持っているのに、同じことを何回か繰り返すとミスが出てしまうのは、プレイヤーの打ち方などの技術的な問題ではなく、そのときの対応の仕方に問題があったと考えるべきでしょう。
できないのではなく、本来はできるけれど、そのときだけ間違ったということです。

打ち方が悪いから
ミスが出る?

飛んでくるボールに対して、そのときの身体の動きが合わなかったからミスショットになったというとき、打ち方そのものに問題があったわけではないのですが、でも多くの場合、ミスが出るのは打ち方が悪いせいだと考えて、「打ち方という技術」を改善しようとします

ミスした後に「もっとこういう振り方をすれば良かった」というイメージで素振りをする方は少なくありませんが、これは振り方が間違ったと思っているからでしょう。

フォームを固める?

「ショットが安定しないのは打ち方が安定していないからだ」と考える方も多いようです。
「フォームが固まっていない」と考えるわけです。

でも、テニスでは毎回違う打ち方をすることが要求されるので、打ち方を固めたとたんに、待っているのは「硬直化」という問題です。

飛んでくるボールによって毎回違う対応が要求される中で、「こういう打ち方をしよう」などと硬直的に考えていると、ロックのリズムの中で民謡を踊るような「場違いな対応」の繰り返しになります。

テニスで要求されるのは、飛んできたボールの状態に合わせて、瞬時に最適な運動を採用して実行する「柔軟な対応力」であって、テニスは定番化した動きで対応できるほど単純なスポーツではないわけです。

動いているボールに
対応するスポーツ

ゴルフの練習場などで、毎回同じ状態で静止しているボールを打つ際には、ミスが出たときは打ち方が悪かったという判断が成り立ちます。

でもテニスのように、毎回違う状態で飛んでくるボールを打ち返す際には、ミスが出たときに、打ち方という「技術」に問題があったと考えるより、そのときの動いているボールへの対応の仕方に問題があったと考えるほうが妥当ではないでしょうか。

テニスのショットは、インパクトのタイミングが千分の数秒くらいズレると狙ったところに打球が飛びません。
千分の数秒というのはとてもわずかな時間なので、タイミングをきちんと合わせるのはとても難しいわけですが、プレー中は、走り回りながらそれを何度も繰り返すことが要求されます。

ということで、ミスショットのほとんどはインパクトタイミングのほんのわずかなズレによって発生します。
千分の数秒早いか遅いかでネットやアウトが発生し、オフセンターヒットやフレームショットが生まれるわけです。
打球がヘロヘロになるのも、インパクトタイミングが微妙にズレているせいです。

反応できないのは
なぜ?

このように、ミスが発生する本当の原因は「飛んでくるボールに対して身体がきちんと反応できなかった」ことにあるのであって、打ち方という技術的な問題のせいではないわけです。
ですから、「身体がきちんと反応できなかった」ということを問題にすべきなのであって、そこに手を付けずに、打ち方という技術的な課題に取り組んでも解決には近付きません。

それでは、「飛んでくるボールに対して身体がきちんと反応できなかった」のはなぜでしょうか。その答えは「その時は瞬時に反応できる状態になっていなかった」ということです。

対戦相手の動きに注意が向いてしまった
これから狙う場所に意識が行ってしまった
ラケットの振り方に注意が向いてしまった
その他いろいろなことが頭に浮かんでいた

等々、いろいろな理由で気が散ってしまっていたことが、身体がきちんと反応できなかったことの原因だと思われます。
上記のようなときには、目を見開いてボールを見てはいるのですが、実際には見えていないという状態になります。

「飛んでくるボールに対して身体が瞬時に反応できる状態になっているかどうか」が、ショットの成否を握っているわけです。

瞬間的な対応が
正確に実行される状態

ですから、ミスを防ぐための最優先課題は「打ち方という技術」を磨くことではなく、飛んでくるボールへの「瞬間的な対応が正確に実行される状態」を作り上げて、それを維持することです。

そうした「瞬間的な身体反応がきちんと機能する状態」とは、聞き慣れた言葉で言うと「集中している状態」のことです。

「集中」とは

ここで「集中」という言葉を見て「なんだそうか」と思われた方も多いのではないでしょうか。

「集中すれば良いんだ」と簡単に考えてしまうかもしれませんが、集中するためには具体的に何をすれば良いのかが思い浮かばない場合、集中は実現しません。

「風呂に入ろう」と考えているだけでは実際に風呂に入れないと同じで、「集中しよう」と考えているだけでは集中状態に入り込むことはできません。

風呂に入るためには、風呂場に行って服を脱いでという具体的な手順が必要なのと同じで、集中状態に入るためには、そのための具体的な手順が必要です。
心を落ち着かせて静かにしているだけでは集中とは言えないのです。

実際には「集中」にもいろいろあって、「授業に集中する」等のボヤッとはしていないというレベルの集中状態から、オリンピックの100m走のスタートで、瞬時に飛び出せる状態でスタートの合図を待つ極限の集中状態までさまざまあります。

そして、テニスにはテニス向きの集中状態というものがあります。
ですから、「テニスのプレーに適した集中状態」についての正しい知識を持っていないと、何となくわかったようで、実はよくわからないという状態で終わってしまう可能性が高いでしょう。

テニス向きの
集中状態

タイミング誤差の許容範囲が千分の数秒という状況で、高速で移動中のボールに身体の動きをピッタリ合わせ続けるには、思考が停止した「無我夢中」という状態が適しています。

意志や思考が働いているときは頭の中で自分の声が聞こえるのですが、それが聞こえるうちは「集中している状態」には入っていません。

頭の中で聞こえる自分の声と一緒に、コートの周りの雑音も消えて、シーンとした中にボールの音だけが聞こえるような状態が集中している状態です。

頭の中の雑音や雑念が消えて、静寂の中で「飛んでくるボールに対して身体が自然に動いてしまう状態」がテニスに向いた集中状態です。

目の情報が直接的に手足に伝えられて、それによって身体が勝手に動いてしまうというような、意志や思考を必要としない反射的な反応によってプレーが構成されていれば、無我夢中の集中状態と言えるでしょう。

安定して勝ち上がるプレイヤーはその状態に入るのが早く、しかも、プレー中に意識があちこちさまようことなく、その状態の中に居続けるわけです。

強いプレイヤーは、集中状態に入り続けることで、身体の反射機能が高いレベルで発揮できる状態がずっと維持されるため、ショットが安定していて威力があるわけです。
安定したショットに必要なのは「安定したフォーム」ではなく「安定した集中状態」なのです。

思考はプレーの
邪魔をする

プレー中に何かの課題を実行しようとしている方も多いのですが、ボールが飛びかう中で「ああしよう」「こうしよう」などと考えるのは、自分の身体の反応スイッチを自分から切ってしまうのと同じです。

考えているときは身体の反射機能は大幅に低下して反応速度が落ちます
ですから、「集中しよう!」などと意識するのも全く同じで、それによって生まれるのは「集中!」という大きな声が頭の中で聞こえる「雑念まみれで集中できていない状態」です。

何らかの課題を考えながら実行できるのは、素振りや球出し、壁打ちくらいです。
「ゲーム中の課題=すべて雑念」としてご理解いただいたほうが、遠回りしなくて済むと思います。

集中状態の獲得

テニスに向いた集中状態、言い換えれば「瞬間的な身体反応がきちんと機能する状態」を獲得するには、「プレー中の自分の意識をどこに向ければ良いのか」を知り、なおかつ、それを継続的に実行できる能力を訓練によって身につける必要があります。

プレー中にボールを見る方法にもいろいろあって、身体が自然に反応してしまうボールの見方と、ボールが見えていても身体が動かない見方というものがあります。

さらに、意識をどこに向けるかによって、飛んでくるボールへの身体の瞬間的な反応が良くなったり、反応レベルが低下して動きが鈍くなったりします。

飛んでくるボールに対していつもあわてている感じだったり、コート上の動きがいつもバタバタしていたり、ラリーで先手を取れずにいつも後手後手になったり、というような自覚症状がある場合は、意識の向く先があちこちにブレていて、瞬間的な反射が機能する状態になっていないということです。

緊張感を維持するのとは違う

ちょっと勘違いしやすいのですが、プレー中に高い集中状態を保つというのは、高い緊張感を保つことと同じではありません。
テニスは長丁場のスポーツなので、いたずらに緊張感を持ってプレーしても途中で疲れてしまうだけです。

ボヤッとしていたら飛んでくるボールに反応できないのですが、だからといって、緊張していれば良いということではないのです。

また、自分を鼓舞するのと集中するのとは全く別のことで、「がんばれ!」「集中!」などの声が聞こえて、心の中がザワザワと騒がしい場合は集中していません。
「シーン」とした静けさが感じられるかどうかが分かれ目です。

必要なのは、プレー中に意識が向く先をあちこちにブレさせないことであって、緊張感を持つことではありません。

集中状態の
獲得能力の優劣

高い技術を身につけることは必要なのですが、それよりもっと大切なのは、高い技術力が安定的に発揮できる「良い状態を獲得して維持すること」です。

そして、「良い状態を獲得して維持する能力」は、人によっての優劣の差がかなり大きいようです。

そのため、「良い状態」を獲得するのがヘタな場合は、せっかく高い技術を持っていても宝の持ち腐れになります。
「うまいけれど弱い」と言われてしまう人のほとんどはこのケースです。

反対に、技術的には大したことはないけれど、試合では安定して勝ち残るという方は「高い集中状態を獲得して維持する能力」が高いわけです。

テニスのショットは反射的な身体反応が成否を握っているので、一度身につけたと思った技術でも、そのときの調子次第で全然ダメになってしまうことがあります。

試合で緊張してボロボロの結果になったという場合、間違いなく言えるのは、技術レベルの問題ではなく、「良い状態」には入っていなかったということです。

技術的にうまいかどうかではなく、技術力を生かせる状態になっているかどうかが、そのときの戦力を大きく左右するのです。

集中状態から
抜け出す努力

「もっと考えてプレーしろ!」というアドバイスは、「無我夢中の集中状態から抜け出して正気に戻れ!」ということです。
サイドチェンジやポイントの合間であれば多少は構いませんが、相手が打っているときに考えながらプレーをするのは自滅につながります。

ダブルスの試合中にペアからいただく、「もっとこうしたほうが良いんじゃない」というありがたいアドバイスも集中状態から素早く脱出するのにはとても有効です。

「意識して何かに取り組まないと良いプレーができない」と考えている限り、雑念に足を引っ張られながら戦うことになります。

このように、長年の練習の積み重ねでせっかく手に入れた高い反射能力が、うまく発揮できないような状態に、自分から進んで入っていこうとしていたり、他人を送り込んだりするケースが数多く見受けられます。

この仕組みを理解している方は、対戦相手に対して「今の打ち方はすごく良いね」などと誉めたりするのもかなり有効です。
誉める内容が具体的であればあるほど、相手の意識が打ち方に向きやすいので、その後のミスが期待できます。

集中状態を
コントロールする技術

先述したように、ボールの見方には上手い下手があります。
見るという、一見単純そうな行為にも技術的な優劣があるわけです。
同じように、プレー中の意識の向け方と安定のさせ方にも技術的な優劣があります。

こうした集中状態をコントロールする技術は、あるレベル以上のプレイヤーにとってはボールを打つ技術より重要かもしれません。
なぜなら、集中状態をコントロールする技術が磨かれていない場合は、ボールを打つ技術をいくら磨いても、その技術が実戦で使えるようにならないからです。

多くの場合、集中状態には日替わり的に良いときと悪いときがあるようです。
集中できているときは身体が自然に動いて良いショットが生まれ、集中できないときは身体の反応が鈍くてプレーが後手後手になります。

でも、集中状態をコントロールする技術が未開拓の場合、集中状態がどうなるかはその時の運まかせになってしまいます。
あるときには偶然良かったりすることもあれば、今日は全然ダメという日もあって、一旦良い状態から抜け出してしまうと戻れないということもあって、こうしたことが原因で戦力が安定しなくなります。
ボールを打つ技術の向上に長年取り組んできたのに最近あまり進展がないと感じていたら、集中状態をコントロールする技術の習得に取り組んでみてはいかがでしょうか。

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