TENNIS-ONE 【TENNIS-ONEのガット張り
張力指定の問題点
■ 張力では何も決まらない
ガット張りは手作業
「ガット張り」という仕事は、マシンを使う機械作業だというイメージがありますが、実際には、そのほとんどを手作業が占めます。
ストリングマシンというと自動でストリングを張るようなイメージを持ってしまうのですが、この機械がやるのは1本1本のストリングを引っ張ることだけで、他の全ては手作業です。
そのため、マシンの目盛りをいくつにセットするかより、
どんな手間を掛けるかのほうが結果に与える影響はずっと大きいのです。

張力で結果は決まらない
高い張力で張ったからといって硬く張り上がるとは限りません。張っている途中でゆるくなる要素はたくさんあるからです。逆に、低い張力でも、途中でゆるむ要素をできるだけ無くせば硬い張り上がりになります。
実際に、「45ポンドで張った」という場合でも、面圧が60以上出ていてカチカチというケースもあれば、別な店では面圧で50を切ってユルユルというケースもあるのです。
ですから、「何ポンドで張った」というのは、張る時に使ったマシンの目盛がいくつだったかを示すだけで、
どれくらいの硬さに張り上がったかを判断する根拠にはなりません
ですが、張り上がりの硬さ(結果)の測定をしていない場合は、張力の数値くらいしか結果を推測する材料がないので、
習慣的に「張力=張り上がりの硬さ」だと思うようになってしまったわけです。

味見をしたことがない
ステーキの焼き加減に話を戻しますが、普通は、ミディアムとかレアとかの「結果」を決めた後に、火加減(やり方)が決まります。「結果」が先で、その次に「やり方」という順で、指定された「結果」(=目標)を出すために、それに適した「やり方」が選ばれるわけです。
火加減を先に決めて「結果的に、こんな焼き上がりになっちゃいました」ということは、普通はあり得ません。

ところが、一般的なテニスのガット張りでは、そのようなことが実際に行われています。「何ポンドで張る」というやり方が先に決まってしまうわけです。そして、その結果どういう硬さに張り上がったかについては、ほとんどの場合チェックされていません。「
料理は作るけれど味見はしたことがない」という状態なのです。
■「適切な硬さ」という指標がない 
作業目標が存在しない
一般的に、作業の結果をチェックしない場合は、その作業には目指すべき結果がないと判断できます。目指す結果があるのに作業の結果をチェックしないというのは、おかしなことになりますので、結果のチェックがない場合は作業目標が存在しないと判断されるわけです。
どんな硬さに張り上がったかを測定しないということは、
張り上げる硬さの目標値がないということです。

目的が無いとやり方は決まらない
ステーキの場合は、でき上がりの状態として「ミディアム」という結果を目指すから、個々の肉の質や大きさに合わせて、火加減も含めた調理の手間のかけ方が決まるのですが、目指す結果が無い場合は、適したやり方を選びようがありません。適当に加熱時間を決めて、仕上がりは成り行き任せという状態です。

テニスラケットの場合も、フェースの大きさやグロメットの構造などが変われば、同じ張力を使用しても張り上がりの硬さが変わります。
目指す硬さに張り上げるためにはモデル毎に張力設定を変える必要があるわけですが、目指す硬さが無い場合は張力をいくつに設定すれば良いかが決められません。

プレイヤーにお任せ
張る側に硬さの指標がない場合は、張力をいくつにするかの指定は全てプレイヤー任せということになります。その結果、「何ポンドで張れば良いのか」というやり方の判断を注文する側がしなければならないという、とても変なことになるわけです。

通常、何かをオーダーする場合は、結果を指定するのが一般的です。結果を指定すれば、注文を受けたほうは指示された結果を出すようにやり方を工夫・調整するわけです。
ところが、一般的なテニスのガット張りでは、注文する側がやり方の一部だけ(張力)を指定する形になっています。そして、その結果はほとんどノーチェックなのです。不思議という他はありません。
レストランで、仕上がりがどんな状態になるか分からないまま「何分焼きますか?」と聞かれるのと同じです。

どんな硬さに張ってあれば快適にプレーできるのか」という指標を持たずに、プレイヤーが指定した張力に従って張り上げるやり方では、プレーに適した硬さの範囲を逸脱する可能性があります。そして実際に、張力指定の弊害は拡大しているのです。
何ポンドで張れば良いのかという判断をプレイヤー側がしなければならない場合に、プレイヤーが頼るのはフレームに書いてある推奨テンションですが、これが混乱の元なのです。

■ 張力指定の弊害の拡大
「先にやり方を決めて結果のチェックをしない」というガット張りの不思議な習慣は、実は昔からずっとそうなのですが、最近になってその弊害が大きくなっています。
弊害が拡大した原因は二つあります。一つはストリングマシンの進化で、もう一つはフレームに書いてある推奨テンションです。

ストリングマシンの進化
テニスのガット張りには、50ポンドで張ると柔らかい、60ポンドだと硬いという昔からの常識みたいなものがあり、残念ながらこの迷信は今も生きています。
ところが、現在のストリングマシンは昔と違い、100平方インチくらいのラケットであれば、50ポンドという張力設定では柔らかく張り上がる可能性はとても低いのです。もちろん、技術の内容次第で結果は大きく変わるため、50ポンドで柔らかく張り上がるというケースが無いとは断言できませんが、きちんとした技術内容を持っているところでは、柔らかく張り上がる可能性はかなり低いでしょう。
低い張力を指定したと思っていても、張り上がり(面圧)が適正な範囲以上に硬くなる可能性が高くなっているのです。

推奨テンションの弊害
ほとんどのラケットには推奨テンション、あるいは適正張力の数値が書いてあります。フレームに書いていなくてもカタログには記載してあります。
ラケットを製造しているメーカーが書いている数値ですから、製品を正しく使うためには、記載してある数値範囲で張って使うべきだと考えるのが普通です。
ところが、
この数値が大問題なのです。たまに、40~55lbsなどという表示ものものありますが、多くのフレームには推奨範囲が50~60lbsと書いてあります。(lbsはポンドの単位)

この50~60lbsという数値範囲は30~40年前からあまり変わっていませんので、ストリングマシンの性能が低いために硬く張り上がらなかった頃にはそれほど問題はなかったのですが、先述したように、現在のマシンでは下限の50ポンドでも柔らかく張り上がることは期待できません。

現実的に、50ポンドと指定して張り上げて、本人は推奨範囲の下限だから柔らかいはずだと思い込んでいて、でも使っていて肘が痛いというケースを実際に何件も見てきています。45ポンドでも同じようなことが起きています。
そういうラケットの面圧を実際に計測してみると、決して柔らかいと言えるレベルではありません。ストリングの張りが硬すぎて肘が痛くなったのに、ポンドの数値だけで
柔らかいはずだと思い込んでいたわけです。
こうした悲劇の原因は、張力の数値で結果を推測するだけで、
実際の硬さを計測しなかったことにあります。

推奨範囲の上限は破壊強度
悲劇を避けるためには、推奨テンションの受け取り方を変えたほうが良いでしょう。この推奨範囲で使えばラケットが快適に使えるという意味ではなく、推奨範囲の上限数値は、フレームが破損した時のメーカー保証の対象になる上限だとお考え下さい。つまり、これ以上の硬さに張ってある場合、壊れても保証対象にはならないということで、それ以外の意味は持っていないとお考えいただいたほうがケガの防止になります。

レシピどおりに調理してから、味見は一切しないというやり方で美味しい料理が作れるはずはないのと同じように、張り上がりの硬さを計測しない張り上げでは適切な硬さを得ることは難しいでしょう。
その上、フレームに書いてあるレシピは昔どおりなのに、コンロの性能が大幅に向上してしまったというのが、ガット張りの現状なのです。その結果、レアを望んでいたのに仕上がりは黒コゲ状態というケースが多発しているのです。
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